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愛よりも the Comic

水木より

2006年3月にアップした「愛よりも」というSSがあります。
それを『怠け者の部屋』の管理人ビビ4世さまが
マンガにしてくださいました!!!
ビビさまのサイトでももちろん公開されていますが
ここでも公開です!

ビビさまの了解を得て、こちらからもリンク
させていただきました。


『愛よりも the comic 前半
『愛よりも the comic 後半


ちなみに原作はこちら

SSを書いていて本当によかった、と思う瞬間です。
ビビ4世さま、本当にありがとうございました

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Partner

久しぶりに会ったくるたんとランちゃんは、突然失踪した
私を責めたり、怒ったりすることはなかった。
怒らないの?と問うと、ふたりは顔を見合わせて、


く 「最初のうちは怒っていたような気がするけど・・・」

ラ 「素子の仕事柄、仕方ないかなって・・・」

く 「長期単身赴任かな?とか」

ラ 「ああ、それそれ」


おかえり、と抱きしめてくれた二人は、まるで昨日会った
友人のように、私を再び迎え入れた。そして昨日の続きの
ように、話を始める。
ベッドの上で思い思いの格好で寝そべりながら、お酒を
啜りながら。


ふたりの最近の話題は『理想のパートナー』だという。
仕事のではなく、一緒に住む相手だ。
男女問わず。


「最近、気づいたのよね・・・4番目以降が肝心なんだって」

とくるたんが珍しく眉間に皺をよせて言う。

「4番目以降?」

「そうなの。たとえば自分の理想のパートナーをあげていく
でしょ?1番目は性格とか2番目は価値観とか。
でも4番目以降になるとね、すごく具体的になるの」
「例えば?」
「服のセンスとか、食べ物の好き嫌いとか、癖とか」


あ、それわかる、とランちゃんがうなずく。


「金銭感覚とか、映画の趣味とか。あと、洗濯の干し
方とかたたみ方・・・」
「そうそう!そういうこと!」

ふたりはすっかり意気投合、手を取り合い、酔いも手伝って
あれやこれやと『パートナーの条件』をあれこれ挙げて
いる。よくもまあ・・・それだけ思いつくものね、と思うほど。


素子はそういうのないの?と話をふられ、二人の話を
聞くだけだった私は、ないと思うけど・・・と答えながら、
ふと思いついたことを口にしてみる。


「・・・セックスの相性は何番目くらいに入るのかしら?」


私のつぶやきに二人がブッとお酒を噴きだす。
冗談よ、と笑う私に、ふたりの女の子は真面目な顔になり、
勢いよく首を横に振る。


「なんで、今までそれに気がつかなかったんだろう・・・」
「さすが素子・・・そうよね、それ、すごく大事・・・」
「でも、別にパートナーと肉体関係を持たないといけない、
って、きまりはないわよ?」
「そんな、肉体関係なしのパートナーなんて、この私達に
ありえないわよ!!!」
「あ・・・そう・・・」
「あ、そう・・・って、素子、この2年の間、ずっとひとりだったの?」
「ひとりだったわ」
「前の仕事の人とかと、会ったり、寝たりしなかったの?
新しい人とか・・・」
「なかった」
「なんでっ???」
「別にそっちの欲求がなかったから」
「信じられない。この素子が~~~!!!」


・・・いったい、私は彼女達にどういう目で見られて
いるのかしらね?


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


彼女達に言わなかったが、傀儡廻の事件の後、私は
バトーのセーフハウスにいる。
もちろん自分のセーフハウスは持っている。だが、一度そこに
訪れたバトーは、こんな機械だらけのところ、人が住む場所じゃ
ねえと呻き、彼がプライベートで保有しているセーフハウスを
斡旋(?)してくれた。


すぐそこに森がある。
土の匂いがする。雨の匂いがする。
古い山荘を改造した、というそのハウスには、テーブルとソファ、
そして、ベッドがあるだけの、シンプルすぎるほどシンプルな
ハウスだった。そこにいると、なぜか胸をぎゅっと締め付け
られるような気持ちになる。それが「懐かしい」という気持ち
だと気づくまで、少し時間がかかった。
嫌いな家ではなかった。


任務の形態上、バトーとはすれ違う生活だったが、彼もまた
ここで暮らしているようだった。
くたくたになって、ハウスに戻る。
シャワーを浴びようと、バスルームに行くと、床が水浸しに
なっている。
眠ろうとベッドに行くと、起きたときのまま、シーツが
剥がされ、くしゃくしゃになって残っている。


私は気にせず、シャワーを浴び、びしょびしょの床を歩く。
くしゃくしゃのシーツを適当に伸ばして、くるまる。
キングサイズのベッドで、手足を思いきり伸ばして眠る。
洗濯乾燥機の中に放り込まれた互いの洗濯物、キッチンに
山積している汚れ物、埃のたまった部屋。
気がむいた時に洗濯物を整理し、キッチンの汚れ物を食洗機に
つっこみ、床の埃を払った。
別に文句はなかった。今までだってやっていた。それが
自分の分だけか、他人の分が増えたか、それだけの違いだ。


バトーも同じようだった。ただ、どう扱っていいのかわからな
かったのか、私の下着が妙に複雑にたたまれているのを見た
時はひとり、床にうずくまり、笑いが止まらなかった。
いったいどんな顔をして、これを手にしたのかしらね、彼は。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「家事は嫌いじゃねえんだな、少佐」
「嫌いもなにもないでしょ。何年もひとりで暮らしていたら、
やらざるを得ない。洗濯だって、軍属の時は、洗濯機の中、
あんた達の下着と一緒に私の下着がまわっていたわよ」
「んなこともあったな。新人兵がビビってたな。イシカワの
頭痛の種だったが」
「洗濯はいいけど、あなたの食生活だけは、いただけないわね。
義体用の固形食とサプリ、ビールとジャーキー、乾き物ばかり」
「飯作っている暇があったら、さっさと寝たいところだ」
「そういえばバトー、作って冷蔵庫に入れておいたシチューの
鍋がからっぽになっていた時は、殺意をおぼえたわ」

めずらしく非番がブッキングしたある日。
私はテーブルを挟んでバトーとコーヒーを飲んでいた。
数日前のこと愚痴った時、ふと、女の子達と交わした
会話のことを思い出した。
そして、ひとつの疑問が起こる。

・・・・・・。

「ああ、あれか。うまかったぜ」
「・・・・・・」
「なんだよ?少佐?」
「4番目って、こういうことかしら?」

小さく呻いた私にバトーが、怪訝な顔をする。

「あ?」
「あなたの食生活」
「なんのことだよ?少佐」
「バトー」
「なんだよ?」
「私、いつからあなたのパートナーになったのかしら?」
「は?」


バトーがぽかんとして、私を見ていた。


「いつからって・・・10年以上前からだろう?」
「仕事じゃないわよ。なんで私、ここに住んで、あなたの
家のことをして、あなたのベッドで寝てるのかと・・・」
「ここは俺のハウスだし、おまえが出て行きたいなら、いつ
出て行ってもいいんだぜ?」
「そうね」
「俺も正直、少佐がこんなに長逗留するとは思わなかったし、
1週間くらいで、新しいハウス見つけて出て行くと思って
いたんだが・・・」


・・・確かに。
最初はそのつもりだった。
でも、出て行きそびれた。
任務はそれほど多忙なわけじゃない。
新しいセーフハウスなど、1日もかからず見つけることが
できるはずだ。
なのに、なぜ、私はここに居続けるのだろう。
このハウスが気に入ったことはさておき。


箱買いの義体用固形食にうんざりしたり。
密やかな楽しみを奪われて激怒したり。
いつもの私なら、速攻で出て行きそうなものを。
誰にも邪魔されないひとりの生活に戻っていきそうな
ものを。


「何が言いたいんだか、わからねえが・・・」
急に押し黙った私を見ながら、バトーが言う。


「聖庶民救済センターに乗り込んだ時に、おまえがシステムを
制圧するまでの間、俺にバックアップを頼んだろ」
「それが?」
「俺はあの時、おまえに求婚された、と思ったぜ」
「きゅ・・・・・」


思わぬ言葉に、コーヒーを噴出しそうになった。
バトーの顔を見る。私の思わぬ動揺がおもしろかった
のか、にやにやしながらこっちを見ていた。


「あん時だけじゃねえぜ?おまえが9課に戻るって、言った
時もな・・・」
「・・・私があなたにプロポーズしたと?」
「違うよ。あの時はな・・・」
「あの時は?」
「こいつ、なんだかんだ言って2年間、相当寂しい思いを
してきたんじゃないか、って思った。ずっとひとりで行動
してたんだろ?」


バトーの言葉にどうかしら?と返しながら、でも彼の言葉が
あながち嘘ではない・・・、むしろ的を得ていることに、驚いて
いた。それに、今の今まで気づいていなかった自分にも
驚いていた。


そうかもしれない。


『組織的方法論では解決できない犯罪への介入』

『個人的推論に基づく単独捜査』

『規範の中にいる時は、それを窮屈と感じるけれど・・・』


偉そうなことを言って・・・。
嘘ではないけれど。
でも、最後の最後で私は折れた。
自分で決めて、行動したことに挫折した。
単独で、ひとりで動いていくこと、生きていくことに。


私は・・・寂しかったのか?

自分に問いかけ、バトーの言葉に導かれ、答えが出る。

私は・・・寂しかったんだな・・・たぶん。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「・・・俺も同じだ」


不意に口を開いたバトーを見た。
彼の義眼は表情を表さない。だが、口元に柔らかい
笑みが浮かんだのがわかった。


「俺もおまえと似たようなもんだ。10年以上一緒だった
パートナーはいなくなる、9課はまったく違う組織になる。
少佐がいた時の9課がだんだん崩れていくのは・・・」
「寂しかった?」
「そりゃ・・・な」

バトーの笑みが微かに歪む。今となっては過去の話だ、
と私に言う。


「ここを出て行くのは、少佐の勝手だ。でもここが気に入って
いるなら、まるごと譲ってもいい」
「ここを?」
「気に入ってるんだろ?」
「そうね。今まで地面とは離れたところで生活していたから」
「なら、手配するさ」
「バトー」
「なんだ?」
「ハウスの所有の問題はどっちでもいい。それより、しばらく、
この生活、続けてみない?」
「・・・どういう意味だ?」
「お互い、入れかわり立ちかわりにここで暮らす。今日みたいに
ブッキングもあるだろうけど、その時は一緒に」
「少佐?何を考えてる?」
「考えてみたら、誰かと一緒に暮らすなんて、軍属時代の
野営以来、初めてよ。ひとりで住むのも悪くない。でも、
ふたり暮らし・・・変則的だけど、それを経験しておくのも悪く
ないんじゃないかってね」
「どういう風のふきまわしだ?」
「嫌なの?」


問う私にバトーが黙る。そして、

「それを俺に・・・聞くか?」


低い声で答えが返ってきた。自分のハウスにおまえを
誘ったのは俺だ・・・、とも。


「交渉成立ね。あなたのベッド、大きくて気に入っているの。
これからも拝借するわ」
「いいのかよ?ブッキングしたら、俺もそこで寝るぞ?」
「私はかまわないわ」

バトーが再び沈黙した。そして、ふと思い出した、というように、
私を見た。

「そういや、さっき、4番目がどうとか・・・って言ってたが、あれは
いったい何の話だ?」
「ああ、あれは・・・」


くるたんとランちゃんとの会話を彼に簡単に話した。
話を聞いていたバトーが、らしくないため息をついた。


「少佐。おまえの4番目は、自分が作った飯を勝手に食うなって
ことか?」
「時と場合によるわね。でもあなたの食生活は改善の余地があると
思うけど?」
「じゃあ、俺の4番目は、俺が寝てる時、自分が寝るからって
俺を床に蹴り落とすなってことだ」
「蹴り落としたつもりないわ。あなたにのしかかったら、
払いのけようとするから、思わず、足が出ただけよ?」
「なんでそこでのしかかる?」
「セックスしたいと思ったからよ。なのにあなたは寝るとか
重いとか言って、拒むから」
「少佐・・・あのな・・・」
「仕事のパートナーとして、あなたは最高。本当にプロポーズ
したくなるほどね。でも、私生活はどうかと思うわ」
「どうなんだよ?」
「さあ?家や家具の趣味は悪くない。気心も知れてる。飲む相手
としても不足なし。でも・・・」
「でも?」
「セックスの相性に重点を置くわ。私は」
「相変わらず、直球な物言いだな」
「前に言わなかった?快楽に貪欲だって。それにきれいごとでは
すまない。一緒に生活していくってそういうことでしょう?」
「・・・確かにな」

私の言葉に、バトーはにやりと笑った。キッチンの方を指差した。


「コーヒーも悪かねえが、いい酒をもらった。焼酎、どうだ?」
「いいわね。分解酵素を作動させなくても、ベッドはすぐそこ」
「相変わらず、酔うと脱ぐのか?」
「脱がせる手間がはぶけていいでしょ?」


やれやれというように肩をすくめ、キッチンにむかうバトーを
見送った。
鼻歌まじりのバトー。ご機嫌ね・・・。


くるたん達との会話を思い出す。


9課を離れていた2年間、誰とも肉体関係を持たなかった
のは・・・たぶん、この男以外、私を満足させることはできない、
と思ったからよ。
快楽だけではなく、愛しさや寂しさや・・・自分の中に渦巻く、
いろいろな想いを、ぶつけることができるのは、受け止められる
のは、バトーしかいないと思ったからよ。


この男はどうだかわからないけれど。
でも・・・たぶん、私と同じ思いだったと思うわ。


そうでしょう?バトー?


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